脂溶性のビタミンDは天然にビタミンD活性を有する化合物であり、ビタミンDには2~7の6種類があります。
そのうち栄養源となるビタミンDは、きのこ類に含まれるビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と魚肉及び魚類肝臓に含まれるビタミンD3(コレカルシフェエロール)に分類されています。
Table of Contents
ビタミンDの供給源
ビタミンDには2つの供給源があります。
一つは、哺乳類の皮膚に存在するプロビタミンD3 であり、プロビタミンD3はコレステロール生合成過程の中間体として、日光の紫外線によってプレビタミンD3となり、更にプレビタミンD3は体温の熱異性化によってビタミンD3が生成されます。
ビタミンD3を生成する紫外線とはUVBですが、日焼けの原因となることから、日焼け止めや衣類等でUV対策をとって、シミやしわの防止に努めているでしょう。
このUVBは夏場の場合、30分の日光浴を行ったところ、700~800IUのビタミンDが生成されると言われています。
しかし、紫外線の弱い冬場ではビタミンD3の生成量が少なくなります。
きのこ類にはエルゴステロールが含まれます。
エルゴステロールは紫外線に当たることによってビタミンD2に変換されます。
もう一つは食品から摂取されるビタミンD2とビタミンD3 です。ビタミンD2とビタミンD3はメチル基(CH3)の数が2つか3つかの違いで側鎖構造のみが異なるものの、両者の分子量はほぼ等しく、体内では同様に代謝されます。
その為、ビタミンDの摂取量は両者を区別せずにビタミンDの合計量で算出されます。
ビタミンDの代謝
ビタミンDは肝臓で25-ヒドロキシビタミンDに代謝され、続いて腎臓で活性型である1a-25ジヒドロキシビタミンDに代謝されます。
(拡大図は上の画像又は青文字をクリック…ビタミンDの代謝pdf)
1a-25ジヒドロキシビタミンDは、標的細胞の核内に存在するビタミンD受容体と結合し、ビタミンD依存性蛋白質の発現を誘導します。
この1a-25ジヒドロキシビタミンDはカルシウム代謝を促進するホルモンであり、身体が健康に保たれていると、その血中濃度は一定に維持されます。
一方、25-ヒドロキシビタミンDの濃度は、皮膚で吸収されたビタミンDと食物から摂取されたビタミンDの合計量に反映される為、栄養生化学的な指標として重要です。
ビタミンDの働き
ビタミンDの主な作用は、ビタミンD依存性蛋白質の動きを介して、腸管や腎臓でカルシウムやリンの吸収を促進し、骨の形成と成長を促す ことですが、その他の作用があることも知られています。
骨形成
ビタミンDはカルシウム、マグネシウム、リンの吸収を促進します。
ビタミンDはカルシウム、マグネシウム、リンを吸収させることによって骨形成を促して、カルシウムを骨に吸収させます。
そしてビタミンDは骨芽細胞の形成に関わります。
ビタミンDは、腎臓からカルシウムが失われないように守ります。
ビタミンDは、骨にカルシウムやリンを吸収させる他にも、血液中のカルシウムやリンの濃度を保ち、カルシウムの利用を高めます。
また、副甲状腺にはカルシウムの濃度を維持する働きがあり、これにもビタミンDが携わっています。
ビタミンDは、副甲状腺の働きを抑制させ、骨から血液へのカルシウムの吸収を抑え、骨密度低下を抑えるとともに、石灰化を予防します。
メンタルヘルス、認知症予防
ビタミンD3は脳で活性型のビタミンD3に変換されます。
活性型のビタミンD3は、脳細胞の保護や分化に携わり、うつや統合失調症、自閉症等の精神疾患の予防 に期待されています。
ビタミンDは、前頭皮質、海馬、視床、視床下部に分布されています。
鬱病の発症はストレスが過多なことが起因しますが、これと同時にビタミンDが不足することで更に発症のリスクを高めます。
ビタミンDはアルツハイマー型認知症やパーキンソン病の相関性があります。
脳の中で記憶を司る海馬では、脳の老化防止、活性化を導くタンパク質と脳内神経の回路の形成に関わる蛋白質があります。
これらが不足すると、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病に罹ると言われています。
しかし、ビタミンDは、この二つの蛋白質の合成を促すことから、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病の予防に期待があるのです。
免疫力の向上
ビタミンDには免疫機能を高めることが知られるようになってきています。
ビタミンDには抗菌ペプチドを作る働きがあると言われます。
これによって免疫力アップを図り、風邪などの感染症や花粉症などのアレルギー症状から身を守る と言われます。
この免疫機能を高めるビタミンDはビタミンD3であることが知られています。
ビタミンDは、感染症やアレルギーに対する免疫機能ばかりではなく、癌への免疫力を高めてくれます。
ビタミンDは細胞分裂を行う時に、正常細胞においても、癌細胞においても、正常な細胞を分化させたり、新しく細胞が生成される時も細胞が正常に作られるように誘導します。
ビタミンDは、NK細胞、好中球、マクロファージを活性させます。
NK細胞は、MHCクラス1分子という糖蛋白質が、細胞の表面の発現の有無で、細胞が正常かどうか識別します。
細胞表面に、MHCクラス1分子が減少、または存在していない場合、NK細胞は、MHCクラス1分子以外の細胞を異物と判断します。
NK細胞はこのようにして、徹底的に癌細胞を攻撃します。
ビタミンDは、MHCクラス1分子を攻撃を抑制させる働きもあります。
一方、NK細胞における細胞の攻撃は、正常細胞には行われません。
そして、癌やアレルギーと関連するT細胞は、ビタミンD受容体によって活性化します。
これによって、免役系が自らを攻撃しないように免疫反応をコントロールし、キラーT細胞にある受容体を活性化させて、炎症反応を抑えるサイトカインの産生を促します。
更に、樹状細胞は全身に存在しており、これが癌予防に大きく貢献してくれているのです。
体内に抗原となる外敵が侵入してきた時、樹状細胞は外敵を素早く認識し、他の細胞に外敵の存在を素早く伝達します。
この働きがキラーT細胞の活性化に繋げ、その結果、癌や花粉症、アトピー、リウマチなどを予防します。
T細胞はB細胞に情報を伝達し、免役機能を発揮し抗原抗体反応を起こします。
これは、一度侵入した外敵からの好転に対する抗体を作り、抗原を除去するという働きによってB細胞が学習し、免疫反応を示した抗体を記憶して免疫力を付けます。
実は、ビタミンDには、B細胞を活性化させる働きも持っています。
このように、ビタミンDは自然免疫系も強化することから、風邪やインフルエンザの予防に有効的と言われます。
この他にも、喘息などの呼吸器疾患の予防や、結核の進行の抑制にも有効的と言われています。
また、日光浴をすると、ビタミンDの生成が促進されるとともに、セロトニンも生成されます。
このセロトニンはメラトニンの材量になり、メラトニンには抗癌作用があります。
何故なら、メラトニンには強い抗酸化作用があり、免疫力を強化して、癌細胞やウィルスを攻撃して、癌や感染症から身を守りるからです。
糖尿病予防
ビタミンDは、糖尿病予防にも大きく関与しています。
インスリンは、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞から分泌されます。
このβ細胞にはビタミンDの受容体が存在しています。
ビタミンDにはカルシウム濃度を調整する働きがあります。
β細胞で合成されたビタミンDは、カルシウムの濃度を調整させてインスリンの分泌を促します。
インスリンが分泌されると、ビタミンDを活性化させます。
また、ビタミンDは、インスリンの分泌を促すだけでなく、インスリン抵抗性を抑制することが明らかになっています。
アメリカボストンの研究では、糖尿病を患わっていない白人成人314人に3年間に渡って毎日17.5mgのビタミンDと500mgのクエン酸を摂取させたところ、Ⅱ型糖尿病の発症率が低下したとの結果が出ました。
そして、インスリン抵抗性も低かったことも確認されています。
違う研究では、イギリスマンチェスター王立診療所に研究にて、ビタミンD欠乏症の患者を対象に、5ヶ月に渡って毎日ビタミンD50μgを投与しました。
その結果、膵臓のβ細胞の機能が改善されたとの結果が報告されたのです。
更に、米国アルバートアインシュタイン医科大学では、別の角度からビタミンDと糖尿病の因果関係について研究されています。
肥満成人645人を高蛋白食と標準たんぱく食に分け、それぞれに低脂肪食群、高脂肪食群に分けてビタミンDを投与しました。
その結果、全ての群で体重減少が見られたと同時に、ビタミンDの代謝に関わる遺伝子を変異させるT変異体を持っている人のインシュリン感受性に顕著な改善が見られたとの結果が出たのです。
T変異体を持っている対象者の中で、高蛋白食と低蛋白食を比較すると、高蛋白食を摂取していた群の方が、インスリン感受性の改善が顕著だったとの報告がなされています。
ビタミンDが糖尿病改善に有効的であるのは、Ⅰ型糖尿病にも見られているのです。
これはフィンランドで行われた調査によるもので、一万人の子供を対象に、生後1年から毎日50μgのビタミンDを投与し、31年間追跡調査しました。
その結果、Ⅰ型糖尿病になる確立が80%下がったとの結果が出たのです。
このような研究結果から、ビタミンDはⅠ型糖尿病及びⅡ型糖尿病のリスクを低減すると考えられます。
循環器疾患予防
ビタミンDは、レニンの分泌を抑制することから、血圧の上昇を防ぎ、脳血管性や心血管性の疾患を抑えます。
ビタミンDの受容体は、脳血管内細胞や心筋細胞などにも存在しています。
この時、ビタミンDは、血管内に粥上の塊が形成されることを防ぎ、粥上動脈硬化を予防すると言われています。
このような働きかけをすることから、ビタミンDは循環器疾患の予防に有効的と言われています。
ビタミンDは副甲状腺ホルモンの分泌を抑制します。
副甲状腺の機能が亢進してしまうと、血液中のカルシウム濃度が高くなりすぎてしまいます。
これが石灰化し、心臓や血管、筋肉などに沈着します。
心臓や血管に石灰が沈着し、トラブルを起こしてしまいます。
この他にも、副甲状腺は心筋細胞を肥大化させるとともに、炎症を起こすと言う観点から、心肥大や動脈硬化を引き起こすと言われています。
ビタミンDのこれらの働きが、循環器系疾患を予防すると言えるのです。
サルコペニア予防
ビタミンD不足は、骨密度の低下だけではなくて、筋肉量の低下を招いてしまいます。
サルコペニアの原因には、栄養失調や筋肉量の低下が主なものであり、この他にもアルコールの多飲や、性ホルモンの欠乏、薬の副作用などが挙げられます。
そして、ビタミンDもその原因の一つです。
全身の筋肉細胞にはビタミンD受容体が存在しています。
この受容体にビタミンDが結合されると、筋蛋白合成が促されることから、ビタミンDが不足してしまうと、サルコペニアのリスクを上げてしまいます。
妊娠の成立
ビタミンDは妊娠時の栄養として大きく関わっている ことが知られてきています。
子宮内膜の着床環境改善、妊娠率の上昇、流産の予防、男性の精子運動率の上昇等、これらの働きに期待があるでしょう。
欠乏症及び過剰摂取障害
ビタミンDが不足してしまうと、腸管からのカルシウム吸収の低下と腎臓での再吸収が低下し、低カルシウム血症を起こしてしまいます。
これに伴い二次性副甲状腺機能亢進症が惹起され、骨吸収が促進し、小児ではくる病、成人では骨軟化症に罹患するリスクが高くなります。
高齢者となるとビタミンD不足の長期化により、骨粗鬆症のリスクが高まります。
一方、ビタミンDの過剰摂取障害として、高カルシウム血症、腎障害、軟組織の石灰化障害を引き起こすことが知られています。
ビタミンDの摂取量増加に伴い、血中25-ジヒドロキシビタミンD濃度は、量及び反応関係を持って上昇しますが、血中25-ジヒドロキシビタミンD濃度が上昇しても、ビタミンD過剰摂取による健康障害が必ずしも起こるわけでもないのです。
その為、ビタミンDの過剰摂取による障害は、高カルシウム血症を指標とするのが適当であると考えられています。つまり、腎障害や石灰化障害はカルシウムの沈着化によって引き起こされると考えてもよいでしょう。
乳児については、多量のビタミンD摂取によって成長遅延が生じるリスクがあるそうです。
ビタミンD産生調節作用
ビタミンDは、紫外線による皮膚での産生は調整されており、必要以上は産生されません。
また、ビタミンDは肝臓及び腎臓において水酸化を受けますが、腎臓における水酸化は厳密に調整されているので、高カルシウム血症が起こると、それ以上の活性化が抑制されます。