歯茎で潰せる硬さの調理方法

噛む力が弱くなると、硬いものが食べにくくなります。

出来上がった料理を刻むのは大変な上に、度々包丁とまな板を洗うのは、手間がかかります。

また、一度調理したものを、包丁とまな板を使って刻んでから食べるのも何だか気が進まないでしょう。

スマイルケア食及びユニバーサルデザインフードの「歯茎で潰せる硬さ」、摂食嚥下リハ学会分類2013の「嚥下調整食4」に該当する調理方法とはどのようなものかを説明します。

まず、咀嚼力が弱くなってきた人が食べづらいという食品でよく挙げられるのが、肉類、根菜類、イカ、タコ、海藻、ナッツ類、筋っぽい菜っ葉類、こんにゃく、かまぼこが挙げられます。





 

肉類

肉類は酵素を使って軟化する方法、phを酸性又はアルカリ性にして軟化する方法、道具を用いる方法があります。

酵素による軟化

酵素を使う方法には、生姜、キウイ、パイナップル、パパイヤ、玉ねぎ、いちじくを使用する方法があります。

これらには蛋白質分解酵素のプロテアーゼが含まれており、すりおろす、もしくはみじん切りにすることによって生肉にまぶし軟化します。

また、果汁は酸性であるのでプロテアーゼを更に活性化させます。

ただ、長時間放置すると風味を損なってしまうので注意が必要です。

まいたけにも肉を軟化させるキノコプロテアーゼが含まれています。

なぜ、まいたけなのかといいますと、他のキノコ類にもキノコプロテアーゼが含まれますが、まいたけのプロテアーゼは70度以上でも安定しており、phが6~7の為、肉軟化に相応しいのです。

ph調整

phを活用した方法としては、ワイン、ワインビネガー、レモン汁、酢といったphが2~3であり、よくマリネでも使われる調味料ですが、生肉をマリネ液に浸すことによって肉のphが酸性になり軟化出来るという方法です。

コーラに付けても軟らかくなるとのことですが、コーラのphが2.4であることから酸性となって軟化出来るのです。

アルカリ性にするには「重曹」を用います。

病院、施設、飲食店によっては電解水生成装置を備えているところもありますが、このアルカリ電解水を活用することによって肉を軟化するのです。

これは重層で代用することが出来、肉1枚に対し一つまみ程度の重曹をまぶすことによって肉が軟化し、おまけに臭みも取れるのです。

ただ、重曹は使用量が多いと苦みが出てしまいますので注意してください。

醤油や味噌、酒は肉のphが中性となってしまうため、軟化効果が見られません。

道具を用いる方法

道具を用いる方法として、圧力鍋を用いた料理、道具でたたくが挙げられます。

圧力鍋を用いる時は、最初に肉の臭み取りの行程を経てからとなります。

通常の鍋で煮ますと、時間がかかりガス代がかかる上、火災事故のリスクも高くなります。

圧力鍋の場合は火にかけて沸騰した後に加圧することにより、通常の鍋より調理時間が少なくて済みます。目安としては15分程度です。

また加圧する行程が食材の軟化に効果的です。

圧力鍋の使い方が難しいのであれば、電気圧力鍋を使った方が安心です。

食材を入れてスイッチを入れるという、作業工程的には炊飯器調理と遜色なく出来るので、高齢者のみの世帯にはお勧めの方法です。肉をたたくには包丁の背で叩く方法、肉叩き、肉の繊維を切断する道具(ミートテンダライザー)があります。出来れば包丁よりも肉叩きやミートテンダライザーがあると良いでしょう。

 

魚類

魚は骨があり、食材の中でも一番誤嚥しやすいと言われます。

圧力鍋を用いる

魚は一番ネックとなるのが骨の部分です。魚の骨に関しては圧力鍋を用いて煮ると骨まで軟らかく調理出来、骨と一緒に摂ることによってカルシウムも摂取できます。

魚は蛋白質が豊富な食材の一つなので、骨ごと摂ることによって筋肉や骨の栄養となりますので、サルコペニア予防に繋がります。

粘り気を活用

魚はものによって鱈のようにパサパサしてしまうものがあります。

特にこのようなパサパサした魚は誤嚥を起こしやすく、食材の中で魚が一番誤嚥を起こす回数が多いと言われています。

そのパサパサした食感を喉こし良くするには、あんをかける、ととろやオクラなどの粘り気のあるものと一緒に食べると、喉をスムーズに通っていきます。

缶詰の活用

調理が大変な時は缶詰を使うのも一つの手です。

缶詰の魚は骨ごと軟らかく調理されているので、蛋白源とともにカルシウムの補給にもなります。

ただ、味付け缶については塩分が多いので食べ過ぎには気を付けましょう。

調理技術があるのなら…

魚は調理技術のある人なら、魚とハンペンと長芋のすりおろしを合わせて蒸したり、スフレにすると誤嚥のリスクを抑えて提供することができます。

とはいっても中々家庭では実現が困難かと思われます。

給食施設で作る場合は調理からキザミの行程を、下処理から調理と逆算して行うので、調理後の刻む作業を行わずに済みます。

介護用食品の活用

練り製品は通常スーパーで売られているもので安全に食べられるものはハンペン以外のものは歯茎で潰すのに少し硬かったり、喉を詰まらせる危険性のものがあります。

少しお値段は張りますが、楽天などのネット通販で「ふくなお」の商品を検索すると介護用食品の練り製品がヒットします。

一見、こんな形のあるものを食べさせても大丈夫なのかと思いますが、歯茎で十分に潰せる硬さで製造されていますので、安心して食べられます。

 

大豆製品

豆類については野菜類で述べた通り圧力鍋を用いて時間を長めに加圧すると軟らかめに仕上がります。

納豆を食べる時は購入時にひきわり納豆を選ぶと良いです。

豆腐は軟らかいから介護食に向いていると思われがちですが、意外に豆腐は誤嚥を起こしやすいのです。

病院などではキザミ食と指示が出されているから刻んで提供しなければならないと思わんばかりに、豆腐を刻んで提供しているところも少なくありませんが、却って手間がかかりあまり意味がありません。

硬さの観点からすると絹ごし豆腐を適度な大きさにカットして用いれば良いのです。

そこであんをかけたり、粘り気のある食品と一緒に摂ると飲み込みやすくなります。

また、豆腐はすり潰して白和えにすると食べやすくなります。

一緒に和えた野菜も食べやすくなりますし、豆腐と野菜の両方から栄養が摂れますので栄養面でもプラスになります。

豆腐を選ぶ際は、充填豆腐など比較的水分の少ない商品を選ぶと良いでしょう。




 

種実類

種実類は軟らかく調理する術がありませんが、練りごまやピーナツペーストが市販されていますので、それらを活用すると良いでしょう。

擦ったものですと、喉に貼りつくおそれもあるので、なめらかな食感で食べられるにはペースト状がおすすめです。

 

野菜類

野菜の中でも特にごぼうや蓮根の根菜類、筍のような筋の多い物は全粥食では提供対象とならないため、使用する食材が常食よりも狭められてしまいます。

使用食材が少なければ、献立に変化を付けづらくなってしまいます。

また、硬いからといって刻んでしまっても、硬さは残っているので決して安全に食べられるものではありません。

繊維に垂直にカット

野菜は基本的に繊維と垂直にカットします。

…となると、全ての野菜が半月切り又はいちょう切りになってしまうのでは?と思うのですが、乱切りでも対応可能ですし、千切りは切り方さえ工夫すれば問題ないのです。

金平ごぼうというと使用されている野菜が千切りで、繊維が多くて食べにくい料理の一つですが、具材のごぼう、人参を切る時は、一度斜めに薄切りをして千切りにすると繊維を短く切断することが出来ます。

また、さいの目切りも繊維に直角に切れるので、マセドアンサラダやひじきの煮物に活用できるでしょう。

重曹による軟化

野菜類は肉同様に重曹を使って軟らかくすることが出来ます。

ただ、物によっては色が変色してしまうことがあります。

根菜類は軟らかくすることが出来ますが、調理の際に褐色してしまいます。

食べても特に害はないですが、見た目を損なってしまいます。

芋類、南瓜は変色してしまうので重曹はお勧めできません。

一番適しているのは緑色の野菜です。

小松菜、ほうれん草などの青物は重層水で湯掻くと軟らかく仕上がります。食塩で茹でるよりも緑色が鮮やかになります。

圧力鍋による軟化

圧力鍋も野菜を軟らかく仕上げるために活用されます。

これも野菜によって向き不向きがあります。

キャベツ、ブロッコリーは圧力鍋には向きません。

ピーマンやパプリカは皮が軟らかくならないので、圧力鍋での軟化が不可能です。

逆に向いている野菜は、かぶ以外の根菜類、芋類、かぼちゃ、とうもろこし、筍、いんげんです。

栗、豆類も圧力鍋に向いています。

また、野菜を下ごしらえするだけではなく、煮込み料理にも活用できるので、煮物やシチュー、ポトフも作れます。

圧力鍋を使うのが苦手な方には電気圧力鍋を使うと良いでしょう。

果物では梨やリンゴがそのままでは硬いので好きだけど食べるのがつらいという声をよく聞きます。

これらも圧力鍋を用いてコンポートにすると、大きいままでも軟らかく食べられ、甘味料を加えなければ糖尿病の方にも安全に召し上がることができます。

圧力鍋に向かない野菜を食べ易くするには?

圧力鍋を活用出来ないものとして、キャベツやピーマン、パプリカはなるべく細く切って油でよく炒めておくと軟らかく調理出来、食材そのものが持っている甘味を引き出すことが出来ます。

かぶは葉っぱの部分は重層水で茹でて、根は鍋で煮るとすぐ軟らかくなります。

トマトは皮の部分が食べづらいので一度湯通ししてから皮を剥きます。




 

海藻類

海草類はひじき、昆布なら軟らかく調理すれば歯茎で潰せる硬さに出来ます。

長い場合は調理前に予め短く切っておくと良いです。

おせち料理などで鮭やニシンの昆布巻きを作る時は、圧力鍋を用いると美味しく軟らかく出来ます。

乾燥したものは喉に貼り付きやすいので、佃煮や汁物の具として活用すると良いでしょう。

海藻は水で戻しても、大きい状態では喉に貼りついてしまうので、3~4㎝以上になってしまう時はカットすると良いです。

 

きのこ類

きのこ類は特に軟化して調理する方法はありません。

軸の部分は繊維に直角に切ると根菜類同様に食べやすくなります。

ただし、椎茸は軸が硬いので取っておかなくてはなりません。

かさも大きく、特に干したものは硬い場合があるのでみじん切りにして調理します。

 

まとめ

以上がスマイルケア食及びユニバーサルデザインフードの「歯茎で潰せる硬さ」、摂食嚥下リハ学会分類2013の「嚥下調整食4」レベルでの軟らかく調理する方法となります。

とは言ってもただでさえ毎日調理をすることは大変です。

既製品の介護食や介護食向けの宅配弁当も出回っており、レトルト品がスーパーや薬局、ホームセンターに出回っております。

宅配弁当はやわらかダイニングやスムースグルメセット、あいーとなど介護食に特化したものを取り扱っております。

ヘルシーフードの通販ではレトルトから宅配弁当まで、その人の摂食嚥下機能に合わせた商品を数多くラインナップしていますので、必要な場合は問い合わせてみると良いでしょう。

因みにキューピーのやさしい献立のようなレトルト品及び、やわらかカップやふんわりムースなどのカップタイプのものは常温で長期保存が出来るので、災害時の備蓄としても活用出来ます。

 
栄養相談、サポート詳細
 

関連記事

最近の記事

  1. エッグフルーツと呼ばれる「カニステル」とは?

  2. 置換換気空調システム

  3. 「紫とうもろこし」が持つ黄色いとうもろこしと違った健康効果とは?