高血圧予防のための食事療法DASH食の実践はプラス+αが更に健康効果をもたらす

DASH食のDASHとは、Dietary Approach to Stop Hypertensionを略した言葉であり、高血圧を防ぐ食事療法を意味します。

このDASH食は、アメリカ国立心臓肺血液研究所が高血圧予防のために提唱した食事療法です。

高血圧予防というと、ひたすら減塩をしなければならないというイメージがありますが、DASH食は、カリウム、カルシウム、マグネシウムを豊富に含む食品を積極的に摂ることが出来る食品構成であることも、特徴の一つです。

このDASH食は、高血圧や循環器疾患のリスクを低減するほかに、糖尿病や肥満の予防にも期待のある食事療法です。





 

DASH食の目的

高血圧予防のための食事として位置づけられているDASH食の目的は、次の5つがあります。

  1. 適正体重の維持
  2. 脂肪を摂りすぎない
  3. 油の質は良質なものを選ぶ
  4. ナトリウムを減らし、カリウム、カルシウム、マグネシウムを積極的に摂る
  5. 食物繊維を積極的に摂る

この目的を果たすには10個の条件があります。

塩分を控える

DASH食による高血圧予防は、塩分制限だけではありませんが、塩分制限も条件の一つになっています。

塩分量は1日あたり6gとされ、出来れば4gにまで下げられると更に良いとされています。

質の良い油を摂る

油については、飽和脂肪酸を控え、不飽和脂肪酸を摂るように謳っていることが多いですが、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸は、それぞれ良し悪しがあります。

飽和脂肪酸の中でも、控えるものは、動物性食品から摂る長鎖脂肪酸と言われます。

長鎖脂肪酸は少量であれば、ホルモンの材料、皮脂としての役割になる等、栄養素の役目がありますが、食の欧米化が進んでいる現在では、過剰摂取になっています。

不飽和脂肪酸の中でも、積極的に摂るのはオメガ3脂肪酸です。

オメガ3脂肪酸は新鮮な魚や、亜麻仁油、えごま油、しそ油、チアシードオイル、サチャインチオイルに含まれています。

少量ですが、緑色の野菜や海藻にも含まれます。

一方、避けるべき不飽和脂肪酸は、揚げ物やスナック菓子に使われている調合油、洋菓子の多くに使われているマーガリンやショートニング、ラクトアイスや菓子類、インスタント食品、安いドレッシングやマヨネーズなどに使われている植物油脂です。

これらは、トランス脂肪酸であるため、血液中のLDLコレステロールを増やしてしまいます。

また、原材料に使用されているトウモロコシや大豆が遺伝子組み換えである可能性があります。

ジャンクフードの日常的な摂取が質の悪い油を摂ることになりオメガ6脂肪酸の過剰摂取に繋がっています。

そして、リノール酸は、高温処理することにより、ヒドロキシノネナールを産生し、認知症の発症リスクを高めてしまいます。

リノール酸は体に毒と言われていますが、少量であれば、高血圧や糖尿病の予防に期待があるのです。

オメガ6脂肪酸は意識して多く摂ろうとする必要はありません。

油を選ぶのであれば、主にオメガ3脂肪酸、オメガ9脂肪酸のうちのオレイン酸から摂りましょう。

但し、オメガ3脂肪酸はオメガ6脂肪酸以上に酸化しやすいため、新鮮なものを摂りましょう。

蛋白質は肉より魚

蛋白質を多く含む食品は肉、魚、卵、豆類、乳類などがあります。

DASH食では、肉を摂るのであれば、油の多い肉を控え、脂質の少ない肉、鶏肉を選びます。

そして、質の良い油を摂るために、肉より魚を食べることを勧めています。

野菜を積極的に摂る

野菜は1日あたり350gを目安に摂ります。

野菜は、緑黄色野菜及び淡色野菜の両方の摂取を心掛けましょう。

緑黄色野菜には、主にカロテノイド系のファイトケミカルが含まれている上に、ビタミンAやビタミンCが豊富に含まれます。

緑色の野菜は栄養価が高く、ビタミンKやクロロフィル、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルも含まれています。

淡色野菜には、硫化アリル、アリルイソチオシアネート、ケルセチン、ポリフェノールなど、野菜の種類によってそれぞれですが、これらのファイトケミカルが含まれており、抗菌作用や抗ガン作用などの健康効果を発揮します。

ファイトケミカルを推奨する大きな理由は、抗酸化作用があることです。

抗酸化作用が血液中の中性脂肪やコレステロールを酸化から守るため、心疾患や脳血管疾患を未然に防いでくれます。

また、野菜には、食物繊維やカリウムが豊富に含まれている点から、高血圧予防に良いとされています。

野菜を選ぶ時は、緑や赤、黄色、白、紫と、出来るだけ色とりどりのものを摂るようにします。

果物は適度に摂る

果物にもカリウムが豊富に含まれています。

但し、果物の缶詰は砂糖の塊のため、寧ろ健康を害します。

生鮮食品の果物は、カリウムや食物繊維、ポリフェノールやフラボノイドの摂取源になり、柑橘類には、血圧を上げるホルモンの働きを8~9割抑えるクエン酸が含まれています。

しかし、果物は沢山摂りすぎると果糖の摂りすぎになり、脂肪肝の発症に繋がります。

みかんであれば1日2個、リンゴであれば半分~1個、バナナであれば半分~1本というように適量を守ります。

一方野菜は、多少摂取量がオーバーしても、それほど問題はありません。

果物を摂らなくても、果物が不足した分を野菜でカバーすることは可能です。

但し、野菜を減らす代わりに、果物を増やすことはやらないようにしましょう。

全粒穀物を摂る

穀物の肝心な栄養は、胚芽や糠の部分にあります。

穀物は精白されていても、ある程度蛋白質が含まれていますが、やはり、精白する前の方がアミノ酸スコアに長けています。

アミノ酸 精白米(めし100gあたり) 玄米(めし100gあたり)
ロイシン 190mg 220m、g
イソロイシン 91mg 110mg
リジン 83mg 110mg
メチオニン 61mg 66mg
フェニルアラニン 120mg 140mg
スレオニン 84mg 110mg
トリプトファン 35mg 42mg
バリン 130mg 160mg

全粒穀物には、ビタミンB群、ビタミンE、食物繊維、ミネラルが豊富に含まれ、その中でも玄米は完全栄養食と言われています。

全粒穀物は、血糖値の上昇が緩やかなため、インスリンの分泌量をそれほど多く必要としません。そのため、血糖が上昇した後、緩やかに血糖が下がる為、あまり空腹感を訴えることがありません。

これが、全粒穀物は腹持ちが良いと言われる理由なのです。

腹持ちが良く、血糖値が安定することは、肥満予防とともに高血圧予防に寄与していると言えるのです。

豆類、ナッツ類を積極的に摂る

豆類、ナッツ類も積極的に摂りましょう。

豆類、ナッツ類は蛋白質、ミネラル、ビタミンB群、ビタミンE、食物繊維が豊富に含まれます。

豆類、ナッツ類にはポリフェノールも含まれ、ビタミンEとともに抗酸化作用を発揮します。

また、豆類、ナッツ類は、カリウム、マグネシウムが豊富に含まれます。

豆類に含まれる油は、オメガ6脂肪酸が主に含まれますが、オメガ6脂肪酸を摂るのであれば、揚げ物やドレッシングから摂るより、豆類から摂るようにします。

豆類から摂ることで、蛋白質やミネラル、ポリフェノール、ビタミンB群、ビタミンEも一緒に摂ることが出来、余計な油を摂らないことで、オメガ6脂肪酸が本来持っている生活習慣病予防効果を享受することに期待があるでしょう。

ナッツ類は、ものによって含まれる脂質が異なりますが、オレイン酸の摂取源になります。

オレイン酸は、オメガ3脂肪酸ほど強力ではありませんが、血液中のHDLコレステロールを増やす働きがあると言われます。

砂糖は1日15gまで

DASH食では砂糖は1日15gまでと定められていますが、砂糖は出来れば避けたい食品です。

同じ糖質でも、穀類のように蛋白質もレジスタントスターチも含まれていません。

また、砂糖は血糖値を急上昇させるため、インスリンを大量分泌させて血糖値を下げます。

インスリンの大量分泌は身体を太らせてしまいます。

肥満になると、インスリン抵抗性が高まり、インスリンが分泌されても、血糖値が下がりづらくなります。

肥満の人は、標準体重の人に比べると、高血圧の発症リスクが2~3倍になると言われます。

過食により、ナトリウムの摂取量が増えるから、血圧が高くなるのも一因ですが、インスリン抵抗性が高まると、血糖を下げようとインスリンが大量に分泌されます。

このインスリンの大量分泌が、腎臓の尿細管でのナトリウムの再吸収を促します。

その結果、血液中のナトリウム濃度が濃くなります。

ナトリウムは濃度に応じて水分を求めます。

水分が血管内に流動すると、血液が膨張し、血圧が上昇します。

また、過剰に分泌されたインスリンは交感神経を刺激するため、血液中にカテコールアミンが放出します。

カテコールアミンは、末梢血管を収縮させるため、この影響により血圧が上昇します。

内臓脂肪は糖から作られます。

本来、内臓脂肪は臓器を守るためにあるものですが、飽食で運動不足が見られる現在では、内臓脂肪が必要以上に付きやすくなります。

内臓脂肪型肥満は、脂肪細胞が肥大化することによって起こります。

肥大化した細胞からは、血管を収縮させるアンギオテンシノーゲンが分泌されます。

また、内臓脂肪が多くなると、血液量が増加して、全身の末梢血管が圧迫されます。

こういった側面からも、太ると血圧が高くなります。

加工食品を控える

加工食品は塩分が多いから、高血圧になりやすいと言われます。

これは、使用されている塩がナトリウムしか含まれていない精製塩だからです。

加工食品にはリン酸塩が使用されているものが数多く、このリン酸塩が重要なミネラルの吸収を抑えてしまいます。

また、原材料にアミノ酸が使われている場合、グルタミン酸ナトリウムを摂取することによって、ナトリウムの摂取量が増えてしまいます。

乳製品は低脂肪のものを選ぶ

DASH食では、乳製品はカルシウムが豊富であるけど、飽和脂肪酸が含まれるから低脂肪のものを選びましょうと謳われています。

しかし、乳製品が身体に合わないのであれば、無理に摂る必要はありません。

カルシウムは乳製品に限らず、小魚や小エビ、魚の缶詰、緑色の野菜、ナッツ類、海藻から摂ることができます。




 

カリウム、カルシウム、マグネシウムとは?

DASH食ではカリウム、カルシウム、マグネシウムを積極的に摂ることを謳っています。

これらのミネラルは血圧にどのように働きかけているのか?

カリウム

カリウムとは細胞内液の主要な陽イオンです。

一方、ナトリウムは細胞外に存在しています。

これらの浸透圧のバランスが整っていると、細胞が正常に保たれます。

カリウム量が保たれていると、血中ナトリウムが過剰になった時に、余分なナトリウムの排出を促進します。

カリウムは、血圧が正常になるように調整しながらナトリウムを排泄します。

カルシウム

カルシウムは、高血圧予防の観点から、重要な役割を担っています。

血中カルシウム濃度は、通常、一定に保たれています。

このカルシウム濃度が、様々な理由により濃度が下がると、副甲状腺が働きます。

副甲状腺が働くと、骨吸収といって、骨のカルシウムが血液中に放出し、血中カルシウム濃度を保ちます。

この現象をカルシウムパラドックスと言います。

この時、血液中のカルシウムが過剰になると、血管中にカルシウムが摂り込まれ、血管が硬くなります。

これが動脈硬化を引き起こし、高血圧や循環器疾患の発症リスクに繋がります。

マグネシウム

マグネシウムは、細胞内外の浸透圧維持に関わります。

マグネシウムが不足すると、イオンポンプが働かなくなり、細胞内にカルシウムが溜まり、血管が硬くなると、高血圧のリスクが高くなります。

マグネシウムには筋肉を弛緩させる働きもあることから、血圧を上昇させることを防ぎます。

 

蛋白質の選び方

DASH食では、蛋白質は脂質の少ない肉、鶏肉、魚を摂ることを勧めています。

肉類に含まれる油の多くは長鎖脂肪酸であり、長鎖脂肪酸は牛肉や豚肉に含まれます。

鶏肉は、長鎖脂肪酸が少ないので、割とあっさりしているイメージがありますが、実は、リノール酸が含まれています。

鶏肉は、生では食べられないため、焼く、揚げるといった調理方法で召し上がることも多いでしょう。

特に揚げ物のような高温調理をするときは、オメガ6脂肪酸が熱による変敗を起こし、油そのものがトランス化してしまいます。

更に揚げ物を調理する際は、油のトランス化とともに、ヒドロキシノネナールのことも懸念されます。

トランス化、ヒドロキシノネナールのことを考えると、鶏肉も気を付けなければならないでしょう。




 

血圧を下げる以外な食品

血圧を下げる食品は、芋類、野菜類、果実類と言われますが、塩分が多いと言われているものの中には、血圧を下げる食品があります。

それは、漬物と梅干です。

いずれも高血圧の原因と思われるものです。

市販されているものは、本来の漬物、梅干ではありません。

使われている塩は精製塩であり、摂れるミネラルはナトリウムしかありません。

商品の見た目を良くするために、着色料が用いられていたり、アミノ酸や蛋白加水分解物、酵母エキスといった旨味調味料、砂糖、果糖ブドウ糖液糖が使われています。

元々保存性があるものなのに、保存料が用いられています。

アミノ酸や糖で味をカモフラージュしているということは、素材の質が良くないことが伺えます。

表示ではアミノ酸と一括りになっていますが、グルタミン酸ナトリウムが使用されている可能性は大きいです。

グルタミン酸ナトリウムは神経細胞や脳の損傷、失明などの危険性が知られていますが、ナトリウムの摂取源にもなるため、高血圧や心疾患、腎疾患のリスクを高めます。

市販品の多くはこのような危険性があるのです。

漬物は、自然塩を用いて漬けることで、ナトリウムの他にも、カリウム、カルシウム、マグネシウムも一緒に摂ることが出来ます。

漬物に用いられる野菜も、生のままで喫食するため、カリウムの摂取源になります。

梅干にはクエン酸が含まれています。

クエン酸は、血圧を上げるホルモンの働きを8割から9割抑制します。

梅干は高血圧予防ばかりではなく、天然の万能薬と言える程、多くの健康効果に期待がある食品です。

選ぶのであれば、原材料が梅、しそ、塩からなる商品を選びます。

自分で漬けるのであれば、塩は自然塩を用いましょう。

 

塩分6gと言われているものの…

DASH食では、塩分を1日あたり6gとし、出来れば4gにまで制限をしてくださいと謳っています。

食事摂取基準2020年では、1日あたり男性が7.5g未満、女性が6.5g未満で制定されています。

もし、精製塩から塩を摂るのであれば、これ位の厳しい制限をしなければなりませんが、本来、塩は、ミネラルが豊富であり、海塩のミネラルバランスは人間の体液とほぼ同じと言われています。

自然塩を使うのであれば、ここまで厳密な制限をする必要はありません。

目安としては1日あたり10gを目安にしてみますが、数値的なものよりも、美味しいと感じる塩加減は、身体が喜ぶものです。

その日の体調によっても、塩分を求める量に変化があります。

自分の体感を大事にしながら、自然塩を活用してみましょう。

 

禁忌

DASH食は、高血圧予防や肥満予防に役立つと言えますが、カリウムの摂取量が多いことから、腎機能低下や透析中の場合は、自己判断でダッシュ食を摂らないようにしましょう。

DASH食はカリウムを積極的に摂ることも、特徴の一つなので、カリウム制限がある場合は、慎重に対応しなければなりません。

腎臓が健康なうちは、カリウムを多く摂ることでナトリウムの排泄を促して悪化を予防することが可能ですが、腎機能が悪化すると、血中カリウム濃度が増えることで、不整脈を起こすことに繋がりかねません




 

高血圧予防にはあの伝統食が鍵を握っている

DASH食は、発祥がアメリカであることから、食品構成もそれに準じたものになりますが、日本ならではの食文化も忘れてはなりません。

海藻を食べることは、日本独自の文化であり、海藻は食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富です。

また、納豆は栄養価が高い上に、カリウムが豊富です。

納豆に含まれているナットウキナーゼは抗血栓薬のように血栓を溶かす働きがあると言われていることから、血栓症予防効果に期待があり、バチロペプチターゼエフは血液の粘度強化を抑制し、血液をサラサラにします。

そばにはルチンが豊富に含まれており、ルチンは、血圧を降下させる働きがある上に、毛細血管を強化します。

これらは、マグネシウムの摂取源としても、重要な役割をこなしているので、是非、取り入れてみましょう。

 

高血圧の原因は必ずしも食生活ばかりではない

高血圧の原因は、食生活による影響もありますが、それ以外の要因もあります。

ストレスや睡眠不足も血圧が上がる原因になります。

ストレスや寝不足は副腎疲労を起こす上に、暴飲暴食に走りやすくなり、カテコールアミンの異常分泌に至り、血圧を上昇させます。

我慢と無理を溜め込めば、交感神経が優位になる上に、ストレスで血液が酸化しやすくなります。

 

まとめ

食事療法は、一度疾患に罹ってからでは手遅れになる場合があります。

病気になる前に、食習慣、生活習慣を整え、将来に備えることが、食べる楽しみを失わない秘訣です。

DASH食は禁忌事項もあるため、実践する場合は、専門知識がある人のフォローを受けながら実践しましょう。

 
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