シンバイオティクスとはプロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたものを言います。
プロバイオティクスとは、体内でブドウ糖や乳酸などの糖を分解して作り出される、人間にとって最も有益な菌と呼ばれる善玉菌のことであり、腸内環境を整える働きを持っています。
プレバイオティクスは善玉菌の餌となることによって、腸内の善玉菌を増殖することによって善玉菌の働きを促す物質のことを指します。
経管栄養における排泄トラブルは深刻
経腸栄養による栄養管理を行う上で、消化器合併症の中で一番起こりやすいのが下痢です。
下痢は対応に苦渋するものであり、患者様本人にとっても介護者にとっても不快な合併症です。
重症になると脱水や電解質異常、便失禁に至ります。
経腸栄養時の下痢の原因として、経腸栄養時の腸内細菌叢の変化、抗生剤の投与、病原性細菌の増殖、大腸の生理異常反応等が挙げられます。
腸内環境破錠とはDysbiosisとも呼び、消化管感染症や抗菌薬等の薬剤使用、絶食など、様々な因子によって腸内細菌の菌数増減や多様性の低下が生じる症状を言います。
食物繊維や乳酸菌を含まない通常の経腸栄養剤による栄養補給を行っている場合、糞便中の好気性菌の濃度が上がり、嫌気性菌の濃度低下、糞便中の総細菌数の大幅な低下、総短鎖脂肪酸や酢酸、プロピオン酸、酪酸の低下、糞便PHの上昇等これらの傾向が見られている報告があります。
経腸栄養を行うと腸内細菌の機能が低下する上に、悪玉菌の増殖阻止が出来なくなります。
そして、短鎖脂肪酸が減り、大腸上皮細胞の水分吸収が弱まることが、経腸栄養による下痢の発生の原因とされています。
経腸栄養を施行している患者の90%以上が抗生剤投与を受けているとの報告もあります。
抗生剤は腸内細菌叢のバランスが崩れた時に悪玉菌の増殖に対して対応出来ず、腸内細菌叢を乱すことが原因により、腸内環境破錠を起こしてしまいます。
腸内細菌叢のバランスが崩れると、腸内細菌叢本来の機能が弱まり、病原性細菌による下痢を起こしやすくなります。
また、その他の因子によっても経腸栄養管理下において腸内細菌のバランスが崩れている可能性がある為、下痢のリスクが高い状態にあるのです。
特にクロストリジウムによる下痢は経腸栄養時の下痢の原因として注目されています。
クロストリジウムはグラム陽性菌で偽膜性腸炎などの重篤な下痢を引き起こします。
特に経腸栄養を行っている場合、他の栄養管理法を行っている患者様に比べ3~9倍の頻度でクロストリジウム関連下痢症を起こすと言われています。
また、胃内に経腸栄養剤が投与されると、上行結腸で水分が過剰分泌されます。
この水分の過剰分泌量が大腸で吸収される水分量を上回り下痢を引き起こす原因となります。
更に短鎖脂肪酸の低下がこの状況を助長してしまいます。
経腸栄養管理下では糞便PHの上昇が見られますが、これは短鎖脂肪酸の低下が原因として考えられています。
乳酸菌配合の栄養剤が排泄トラブルの解決に
最近ではシンバイオティクスの有用性が注目されています。
乳酸菌発酵成分含有経腸栄養剤やグアーガム含有経腸栄養が開発され、経腸栄養に取り入れるケースが増えてきています。
これらの商品を活用することにより、乳酸菌の機能が活用され、下痢や便秘の症状改善に繋がった事例も多く挙がっています。
また、免疫力を上げることにより、MRSAやESBL等の薬剤耐性のある感染症に対して有用であることや、クロストリジウム感染症の再発の抑制にも繋がっています。
下痢の症状を改善されるとオムツの使用量が少なくなり、経費削減に繋がるとともに本人の不快感解消や介護負担の軽減、施設内の便臭軽減にも繋がってきます。
更に、抗生剤を使用せずに済むことから、腸内環境破錠を防ぎ、更に薬剤にかかるコストを削減することにまで繋がります。
万が一経腸栄養における栄養管理を行っている患者様が下痢を起こしてしまった場合、通常では絶食して点滴する方法をとりますが、下痢の改善に良いことから、経腸栄養剤をシンバイオティクスを含有したものに変更し、継続して経腸栄養による栄養管理を行うことが可能になります。
これにより、消化管を使用することが継続出来るため、消化管機能低下防止にも繋がり、絶食による低栄養や褥瘡を予防することが可能になります。
これらシンバイオティクスに特化した経腸栄養剤の下痢症状改善や感染症治療の効果について、2020年の日本静脈経腸栄養学会では沢山の事例が挙げられたそうです。
コロナ禍により、残念ながら開催は見送りとなりましたが、シンバイオティクスの力がどれだけ重要かを思い知らされます。