病院や施設に生息するモンスター

近年、福祉に関わる様々な法律の中で「尊厳の保持」の規定が謳われています。

2005年に改正された介護保険法では要介護状態になった高齢者への「尊厳の保持」が明記されました。

尊厳の保持は2004年の「介護サービス従業者の件主体性のあり方について」では尊厳を支えるケアが、自立支援を支えるものとして更に一歩進めるものとしています。





 

相手の尊厳は分かりづらい

尊厳を支えるケアを具体的に挙げると「利用者のそれまでの生き方を尊重したケア」「心豊かで自立・自律した暮らしを実現するケア」「穏やかな終末期を支えるケア」の3つが挙げられます。

とは言っても、要介護状態に置かれている高齢者の尊厳を保持するには、何処に着目したら良いのか分からないことも多いにあります。

相手を一人の人間として尊厳を保持することは、とても大切なことであります。

しかし、この「尊厳の保持」を履き違えてしまえば、要介護状態に置かれている高齢者や施設の利用者の人間性を崩壊してしまうことがあります。

 

介護現場はストレスフル

施設に入所する入所者は認知症状や身体機能によるものが理由で入所されています。

認知症の高齢者を占める割合が多く、中々その方の生き様が読めず、更に認知症状による問題行動から、ついついその利用者に強い口調で接してしまうケースも少なくありません。

人を相手にする業務なのでストレスは半端なく、これに加えて職場の人間関係の絡んできます。

一般的には介護業務が精神的にきついのはこのような理由によるものと言われています。

 

今の高齢者は昔と訳が違う

実はそれ以上に厄介なのはリウマチなどで身体に障害を患っているものの、認知症状はなく、寧ろ介護に携わるスタッフよりも口が達者でテレビなどの媒体物により、情報を事細かく収集出来る利用者です。

全てのこのような利用者に当てはまるというわけではありませんが、利用者によって、本人の自己主張の度合いが大きく変わります。

以前は明治、大正生まれの方が大半でしたので、本人から不平不満をあからさまに明かすことは殆どありませんでした。

寧ろ「有難い、有難い」と言ってくれる位です。ただ、その利用者が文句を言わないからといって、ぞんざいに扱ってはなりません。

しかし、今は入院患者や施設の利用者の世代層が変わり、自己主張の強い人が増えてきている傾向にあります。

そこで「尊厳の保持」を履き違えてしまうのが、利用者の個人的な我儘を「その人らしさ」に結び付けてしまうことです。

例えばそのような人が特養に入所されていると、その人に関わるスタッフは大変手を焼いてしまいます。

 

尊厳の保持を履き違えた事例

これはあくまでも一例ですが、ある施設の利用者に60代位の比較的若いリウマチの方が入所されていました。

認知症状は特になく、元々物事をはっきり申す性格でした。

しかし、その人が認知症状が全く見られないことを理由に、本人の要求をそのまま受け入れることを「尊厳の保持」として対応していました。

例えばインスタント焼きそばが食べたい旨を申し出ればインスタント焼きそばを提供し、ピザを食べたいとの申し出があればピザを提供、更にたい焼きやカツ丼、うな重と本人の要望に全て答えたのでした。

そうやっていくうちに、この利用者の欲望は更にエスカレートし、決められた金額の中で提供する施設の食事に対し、とんでもない暴言を吐くようになったのです。

更に、自分の好きなものを食べていて、尚且つ病気によって身体を動かせないことから、糖尿病や脂質異常症の症状が現れてしまいました。

しかし、自分の好きなものを食べながら血糖値を正常に保ちたいという無理を押し付けてきたのです。

この方の我儘はそれだけではなく、特養という集団生活の場にも関わらず、入浴時は必ず1時間湯舟に入れて欲しいとのことでした。

しかも施設内の入浴設備の数には限りがあり、100床抱えている施設であった為、一人の利用者によって浴槽が独占されると、そのしわ寄せは他の利用者に行ってしまいます。

また、他の利用者を長時間の間、裸で待たせることによって体調不良を招いてしまいます。

当人は自分の思うようにいかない介護を受けると、介護スタッフに対してとんでもない暴言で罵倒し、中にはその方と関わるのを嫌がるスタッフもいました。




 

利用者のモンスター化は尊厳の保持ではない

この「尊厳の保持」を履き違えたことにより、この利用者はモンスター化してしまったのです。

そしてその利用者の我儘によってしわ寄せを受けてしまった他の利用者の尊厳は保持されているのかというと「はい」とは言えません。

ただ、この利用者も元々はモンスターではありませんでした。

モンスターを作り出すのは、その場に関わっているスタッフなのではないかと言えます。

本来「尊厳の保持」とは自立支援をサポートする筈のものであり、この利用者の無様な姿は自立支援とは全く無関係となってしまっています。

施設生活は集団生活の為、個人の要望となると制約が付き物です。

施設生活で自立した生活を送るには、本人の残存機能の範囲で出来る限り自立した生活を支援するための介護サービスを提供することが基盤となるのではないのでしょうか。

施設介護サービスは介護士によって必要に応じて日常生活の援助を受けながら施設生活を送るためにあるものですが、利用者の自立支援をサポートするには栄養や機能訓練が影ながら支えています。

つまり、「健康管理」も尊厳を保持するための自立支援をサポートすることとなるのです。

 

個人的な我儘は結局本人の責任

「好きなもの(アイスクリームやカップ焼きそば等身体に良くないもの)」好きなだけ食べて、「あたりの健康診断結果に異常があるのはあんたが悪い」といったところで、その根本原因は不摂生な食生活を送った張本人にあるだけなのです。

何故なら、「好きなものを好きなだけ食べる」行動を選んでいるのは、その利用者自身だからです。

子供が好きなだけお菓子を食べて「大デブ」になってしまったのを、親や友達のせいにするのと一緒なのです。

「高カロリーで栄養がないものは太るし健康に良くない」というのは至って物理的なものであり、いくら他力本願したところで「この世の法則」には適わないものです。

 

施設生活は集団生活の場

介護保険法では「尊厳の保持」を提唱しても、やはり施設生活は集団生活の場となってしまいます。

特に多床室を抱えている施設の場合は尚更でしょう。

一人暮らしをしているのなら、自分の食べたいものを好きな時間に食べて、好きな時間に入浴することが可能ですが、施設生活では施設の中のスケジュールがメインとなってきます。

(これをいちいち利用者の我儘を鵜呑みにしていたら、働く側にとってブラックな環境を生み出すことにも…)

特養に入所されている大半の方のADLの改善は困難ですが、その人にとっても他の利用者にとっても、施設生活を平穏に暮らしていけるためにサポートしていくのが、スタッフの役目ではないでしょうか。

 

ケアにあたる人間が健康であること

モンスター化したお客様を扱う事は精神衛生上良くありません。

精神的なダメージは心だけではなく身体も蝕みます。

顔色が悪くて不機嫌そうなスタッフにケアをされ、ケアを受ける側の者が精神的な症状を提訴しているという現場を実際に見てきました。

これが次々と負の連鎖を生むものです。

ケアに当たるスタッフが心身ともに健康だからこそ、利用者様や患者様に元気を与えることが出来ます。

そして元気を与えられた利用者様や患者様から、ケアにあたるスタッフは元気をもらいます。

スタッフが健康的に働けるからこそ、より良いケアが可能になり、病院であれば患者様に、施設であれば利用者さまに、心温まるケアを提供できるのです。

それは「ウィンウィン」の関係とともに、穏やかな終末期の提供にも繋がるでしょう。

 
栄養相談、サポート詳細
 

関連記事

最近の記事

  1. 病院や施設に生息するモンスター

  2. 「カラギーナン」は海藻から抽出されているにも拘らず発癌性が疑われている

  3. リラクゼーション作用を持つ女性に優しい野菜「チコリ」