中心静脈栄養の問題点

中心静脈栄養は経口摂取が困難且つ消化管機能不全を起こしていても、栄養補給が出来る為、栄養的な価値があります。

急性期で腸管を用いた栄養管理が困難なケースの一時的な栄養補給法でしたら、中心静脈栄養の価値は高いと思いますが、導入するタイミングを誤れば、経管栄養法同様に不幸な事例を増やしてしまうものです。

そして、臨床の現場では様々なリスクと隣り合わせです。





 

感染症を起こしやすい

中心静脈栄養は、他の栄養補給方法に比べて感染を起こすリスクが高いというデメリットがあります。

カテーテルに接続されている輸液ラインとのコネクタ部分や側注部が感染源となることが多く、カテーテル感染により約10%の割合で敗血症を引き起こしてしまいます。

発症してしまった場合は、致死率が極めて高いのです。

カテーテル敗血症の予防策として、カテーテルの材質や種類、インラインフィルタ輸液システムの利用を検討するのが良いと言われています。

 

合併症を起こす

中心静脈栄養は合併症を起こすリスクも高いのです。

高血糖

中心静脈栄養で最も多い代謝合併症は高血糖です。

高カロリー輸液製剤は主にブドウ糖がエネルギー源となって作られており、高濃度の糖質を投与した場合、高血糖や高浸透圧性非ケトン性昏睡、高血糖による糖尿病ケトアシドーシスを発症しやすくなります。

ただし、中心静脈栄養を突然中止してしまうと低血糖を起こしてしまうことがあります。

高アンモニア血症

肝不全、腎不全のアミノ酸製剤の選択が不適切な場合、高アンモニア血症をきたしやすくなります。1ヶ月以上、必須脂肪酸が欠乏すると脂質代謝異常が起きやすくなります。

肝障害及び胆石症

微量元素のビタミンやミネラルが補給されないと栄養素の欠乏が生じてしまいます。

急に高カロリー輸液を投与した場合は、中心静脈栄養を開始した1~2週間でアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、ビリルビン(Bill)の上昇が高頻度で認められ、胆汁うっ滞、脂肪肝等のリスクになります。

特に脂肪肝はブドウ糖投与量が多すぎると起きやすいので、脂肪乳剤の併用を検討すると良いでしょう。

更に長期に及ぶ中心静脈栄養は胆石の発症頻度が高いと言われています。

 

合併症の予防方法は?

高カロリー輸液を開始する際はブドウ糖濃度が低濃度のものから開始し、ビタミン製剤やビタミンB1を含むキットを使用し、高血糖や肝障害の予防に努めることも大切です。

 

長期の利用により栄養吸収障害を起こす

中心静脈栄養に限らず、静脈栄養による栄養管理は腸管を使用しません。

長期の絶食により腸管を使用しないと、小腸内の腸絨毛は委縮し、小腸内の表面面積が小さくなるとともに、腸内細菌叢の量や質が変化してしまいます。

この腸絨毛は経口摂取や経腸栄養を摂取されている時は維持されているのですが、半消化態栄養剤や静脈栄養の場合は腸絨毛を委縮しやすくなり、特に静脈栄養の場合は尚更です。

腸絨毛が萎縮すると、栄養成分の吸収障害が起こってしまいます。




 

腸内環境悪化

さらに腸内環境の悪化を招き、免疫力の低下により原疾患の治癒が遅延します。

便秘状態になるので腸内には便やガスがたまり、腹部が張り、血行が悪くなることによって疲労物質が溜まり、発癌物質をつくやすくなります。

また、脳腸相関の関係から各器官にも大きく影響を与えてしまいます。

当然ながら腸内環境悪化が起こり、腸内細菌が血液中に移行するバクテリアルトランスロケーションを起こすリスクも高まります。

 

有効活用するのなら急性期に

急性期の場合は、早期から少量の栄養を腸管に入れて腸管機能を改善させ、徐々に経口摂取に移行させられるケースの場合は、静脈栄養は有効活用されます。

絶食患者を減らすとともに、出来る限り早期に機能改善に至ることが出来れば、機能回復を早めるとともに早期退院に繋がるでしょう。

静脈栄養を行っているから必ずしも腸管が使えなくなってしまったとは限りません。

少しでも可能性を見つけて、その人に合った濃厚流動食を経腸栄養にて提供することを試みるのも良いでしょう。

また経口摂取の可能性があるのなら、摂食嚥下機能訓練と併せ、離水性の少ないゼリーから経口摂取をはじめて見ると、患者様が口から食べることにより希望を見出す可能性が出てきます。

 

エンドステージはどうすべきか?

経口摂取が困難になる要因として終末期があります。

経験上、特に苦しそうな症状が見られず普段通り過ごしていた人が、突然の急変後にお亡くなりになってしまったケースも幾つか見てきました。

殆どの人に共通して見られるのが、血清アルブミン値が低く、場合によっては2.0g/㎖未満であり、急に食事が食べられなくなる、または急変する症状が現れます。

当患者様がエンドステージかどうかの判断にかかるところですが、経口摂取が困難で何とか栄養を取らせてあげたい一心で中心静脈栄養に変えたら、延命は出来たものの寝たきりの生活を送ることになり、却って患者様を不幸な状態に陥らせてしまったケースも少なくありません。

このような時、延命を望むのか、それともエンドステージに向けて人生の最期を可能な範囲で有意義に過ごしたいのか、自分の意識がしっかりしているうちに伝えておくのが良いでしょう。

 
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