蛋白質は三大栄養素の一つであり、身体をつくることに欠かせない栄養素です。
身体を構成する他にも、代謝の調節や神経伝達物質としての役割も担っています。
重要な役割を担った栄養成分の為、不足してはならないですが、過剰摂取も弊害を起こしてしまいます。
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総論
蛋白質は、20種類のℒ-アミノ酸がペプチド結合して出来た化合物です。
蛋白質は生物の重要な構成成分の一つであり、構成するアミノ酸の種類や数、ペプチド結合の順序によって種類が異なり、分子量が数千個~億単位になるウイルス蛋白質まで多種類が存在します。
ペプチド結合したアミノ酸の個数が少ない場合はペプチドと言われています。
20種類の蛋白質のうち11種類は他のアミノ酸や中間代謝物から合成することが出来ますが、9種類は食事から摂取しなければならない為、必須アミノ酸と呼ばれています。
必須アミノ酸は以下の通りです。
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非必須アミノ酸は以下の通りです。
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蛋白質の働き
蛋白質には次のような働きがあります。
体組織の構築
蛋白質は筋蛋白合成に必要な栄養素ですが、蛋白質は皮膚や筋肉、骨や臓器、血管等、身体のあらゆる組織の材料となります。
その為、組織の成長や維持、修復に欠かせないものとなっています。
これらの蛋白質にはコラーゲンやエラスチン、ケラチンがあります。
蛋白質はDNAやRNAの材料としても欠かせません。
あらゆる組織の材料である蛋白質を摂ることは、肌や髪、爪などを美しく保つ基盤となります。
代謝の調節
蛋白質は、酵素やホルモンとして代謝を調節しています。
アミラーゼやペプシン、トリプシン、キモトリプシンといった消化酵素としての役目を担っています。
神経伝達物質として
蛋白質を構成しているアミノ酸は、蛋白質合成の素材であるだけでなく、神経伝達物質やビタミン、その他重要な生理活性物質の前駆体ともなっています。
その前駆体にはトリプトファンやフェニルアラニン、メチオニンがあります。
また、レセプターの構成成分としての役割も担っています。
エネルギー源
酸化されるとエネルギーとしても利用されます。
但し、蛋白質によるエネルギー源は緊急時に備えるものなので、炭水化物や脂質が優先的にエネルギー源として利用されます。
抗体の形成
蛋白質は抗体(免疫グロブリン)を作る働きも担っています。
γ-グロブリンは抗体として生体防御の役目を担っています。
蛋白質の中でフィブリンは血液凝固に関与します。
フィブリンは傷口が出来ると、血小板と重合して血液凝固作用を発揮し、止血によって大量出血や傷口からの感染を防止します。
輸送及び貯蔵
蛋白質は栄養成分を全身に運搬し、細胞内外に物質を輸送する働きがあります。
ヘモグロビン、アルブミン、トランスフェリン等は物質輸送に関与します。
蛋白質は貯蔵としての役割も持っています。
貯蔵蛋白質は分解されたアミノ酸を肝臓に貯蓄して、必要に応じて各組織に送ってそれぞれの役割を担います。
収縮
筋肉の中には収縮性を持つ蛋白質の筋原線維が詰まっています。
筋原線維にはフィラメントという繊維が存在し、アクチンとミオチンという蛋白質が筋蛋白質の8割を占めています。
収縮時の動きを制御するときに蛋白質が関わります。
つまり、日常生活で身体を動かす時に筋肉を使うことで、収縮蛋白質として利用されます。
細胞分裂のプロセスもこの一環です。
蛋白質の分解(異化)
摂取した食品中の蛋白質は、胃の胃酸やペプシン、膵液中のプロテアーゼであるエンドペプチターゼ(トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ)とエキソペプチターゼ(カルボキシナーゼ)の働きにより、遊離アミノ酸とオリゴペプチドに分解されます。
オリゴペプチドは、小腸上皮細胞の刷子縁膜に局在するオリゴペプチターゼの働きによって、トリペプチド、ジペプチド、遊離アミノ酸に分解されます。
小腸における遊離アミノ酸の吸収は複数の輸送担体によって行われます。
この輸送担体にはナトリウム依存性とナトリウム非依存性があります。
また、ジペプチドやトリペプチドはアミノ酸輸送系とは異なるペプチド輸送担体によって小腸細胞内に取り込まれ、細胞内ペプチターゼによって加水分解されます。
(拡大図は上の画像又は青文字をクリック…蛋白質の同化・異化pdf)
蛋白質の合成(同化)
腸管より吸収された遊離アミノ酸は、門脈を経て肝臓に入り、肝臓にて肝蛋白質や血清蛋白質等が合成され、一部は非必須アミノ酸に変化し、一部はそのまま血液中に送られます。
過剰分は分解され、グリコーゲンや脂肪に変換し、脂肪は貯蔵されます。
血液中のアミノ酸は、各組織に取り込まれ、組織蛋白質の供給源やホルモン、生理活性物質、核酸等の構成成分になります。更に酸化されるとエネルギーとして利用されます。
体蛋白質は合成と分解を繰り返しており、動的平衡を保っています。
蛋白質の種類によって代謝回転速度が異なりますが、いずれも分解されてアミノ酸となり、その一部は尿素となって排泄されます。
異化更新とそのリスク
異化亢進とは、体内の骨格筋を中心とした筋蛋白質を糖新生という経路でエネルギーに変換する作業です。
(拡大図は上の画像又は青文字をクリック…糖新生pdf)
人体には侵襲が加わると、エネルギー代謝が亢進し、損傷された組織を修復しようとします。
また、肺炎等の炎症性疾患においては交感神経系の活発化によりエネルギー代謝が亢進します。
COPDやカヘキシア、癌悪液質の時は常にエネルギー消費が高い状態に置かれます。
通常エネルギーが代謝される時は糖質が優先的にエネルギーとして燃焼し、糖質の蓄えがなくなった時に脂肪をエネルギーとして燃焼しますが、エネルギー代謝が亢進している場合、糖質も脂質も蓄えがなくなり、緊急用として貯蓄してある筋蛋白質をエネルギーとして利用します。
筋蛋白は、崩壊した後にグルタミンやアラニン等のアミノ酸を動員し、このアミノ酸は糖新生によって肝臓でグルコースに変換されます。
グルコースは血液中にて損傷した組織タンパク合成や、赤血球、脳のエネルギー源として利用されます。
腸管のグルタミンはアラニンに転換され、肝臓へ供給し、グルコースが生成されてエネルギーとして利用されます。
このように大手術や重度外傷、熱傷等の高度な侵襲や肺炎等の炎症、COPD等エネルギー代謝が亢進される疾患において、蛋白質の異化が同化より亢進してしまい、身体機能やの低下及び栄養状態の悪化を招き、予後を悪化してしまいます。
栄養不良による徐脂肪体重の減少は、筋肉の減少、アルブミン等の減少、免疫機能障害、創傷治癒遅延、臓器障害等を引き起こしてしまいます。
侵襲においては早期な栄養管理が必要となります。
術後、経口摂取が困難な場合には非経口的な経腸栄養、経腸栄養が困難な場合は高カロリー輸液により出来る限り早いうちから栄養補給をし、徐々に経口摂取に戻していきます。
この時に該当患者の身体状況や病態に応じながら補助食品を活用していき、少しでも早い回復に努めます。
COPDや癌、慢性心不全によるカヘキシアについては、患者様個々の状況に応じて、高いエネルギー消費に応じた栄養管理が必要となります。