主に赤血球の材料として利用されるミネラル「鉄分」

鉄分は人間の身体の中に3~5gほど存在している必須ミネラルの一つです。

鉄は環移金属元素の一つであり、食品中の鉄の主な形態は蛋白質と結合したヘム鉄と無機鉄である非ヘム鉄に分けられます。

体内の鉄分のうち約70%は赤血球をつくっているヘモグロビンの材料とされ、約25%は肝臓に貯蔵されています。

体内の鉄分は酸素の運搬や酵素のような働きをするための「機能鉄」と、鉄分の貯蔵や運搬に使われる「貯蔵鉄」に分けられます。





 

鉄分の吸収と代謝

食品から摂取された鉄は、十二指腸から空腸上部において吸収されます。

ヘム鉄はそのままの形で特異的な担体によって胃管上皮細胞に吸収され、細胞内でヘムオキシゲナーゼにより、2価鉄イオンとポルフィリンに分解されます。


(拡大図は上の画像又は青文字をクリック…鉄分の吸収pdf

 

非ヘム鉄は3価鉄イオンの形態ではほぼ吸収されません。3価鉄イオンはアスコルビン酸などの還元物質、又は腸管上皮細胞刷子縁膜に存在する鉄還元酵素によって還元されて2価鉄イオンとなり吸収されます。

2価鉄イオンが、2価金属輸送担体1と結合して吸収されるので、この吸収は亜鉛、銅と競合します。鉄の吸収率は同時に摂取する食物成分によって大きく変動します。

蛋白質、アミン酸、アスコルビン酸(ビタミンC)は鉄吸収を促進し、フィチン酸、タンニン、シュウ酸等は抑制します。

鉄代謝には恒常性維持機能が強く働いており、体内鉄が減少すると球種率が上がり、排泄は少なくなります。

腸管上皮細胞内に吸収された2価鉄イオンはフェロポルチンによって門脈側に移出され、腸管上皮細胞基底膜に存在する鉄酸化酵素であるセルロプラスミンによって3価鉄イオンに酸化されます。

過剰になった鉄は腸管上皮細胞内にフェリチンとして貯蔵され、腸管上皮細胞の剥離に伴って消化管内に排泄されます。

血清側に移行した鉄は1分子の血症トランスフェリンに2分子結合し、トランスフェリン結合鉄(血清鉄)として全身に運ばれます。

多くの血清鉄は骨髄において赤芽球にトランスフェリンレセプターを介して取り込まれ、赤血球の産生に利用されます。

120日の寿命を終えた赤血球は網内系のマクロファージに捕食されますが、この際に放出された鉄はマクロファージの中に留まり、トランスフェリンと結合して再度ヘモグロビン合成に利用されます。

 

鉄の貯蔵

鉄分は、肝臓で産生されるヘプシジンにより、分泌量によって鉄の吸収量を調整しています。

細菌感染、炎症、体内の鉄飽和状態、造血シグナル、低酸素シグナルによりヘプシジンは腸からの過剰な鉄の吸収を抑制します。

多くの病原体がその増殖に多量の鉄を要する為、ヘプシジンが血清鉄濃度を低下させることにより、炎症の原因となる菌の増殖を抑制します。

但し、この状態が続くと鉄不足を招くことがあります。

 

鉄分の主な働き

貧血には鉄分が良いと言われますが、鉄分の働きには次のものがあります。

  • ヘモグロビンの材料
  • 疲労回復、持久力の維持
  • セロトニン生成に関与
  • 抗菌効果
  • コラーゲン生成
  • 抗酸化作用
  • 免疫機能の維持

 

ヘモグロビンの材料

鉄はヘモグロビンの原料となり、赤血球をつくるのに必要不可欠な栄養素 であり、体内の鉄分のうち70%を占めています。

赤血球は骨髄中の造血幹細胞が分裂・成長していくことで作られます。

分裂の過程では葉酸とビタミンB12が関わり、赤血球が生成されます。赤血球が不足すると鉄欠乏貧血を起こします。

鉄を構成要素に持つヘモグロビンは、肺など酸素濃度の高い場所で酸素を受け取り、酸素が消費され、酸素濃度が低くなった各臓器へ酸素を運搬する働きがあります。

酸素と結合したヘモグロビン酸素ヘモグロビン、酸素を放出したヘモグロビンを還元ヘモグロビンと呼びます。

ヘモグロビンは酸素ヘモグロビンとして酸素濃度の低い場所や二酸化炭素濃度が高い場所で酸素を放出します。二酸化炭素の一部は異なる部位でヘモグロビンと結合し、肺まで送られた後に体外へ排出されます。

このように、酸素、二酸化炭素の運搬作用にはヘモグロビンの材料となっている鉄分が関与しているのです。

 

疲労回復、持久力維持

鉄分は細胞に鉄分と酸素を届けるヘモグロビンの材料であることから、運動時などの酸素を必要とする時には必要不可欠となっております。

鉄を含む酵素であるシトクロムが電子伝達系における酸化還元反応によってATPを生成することに関わります。

エネルギーが利用され、運動時の乳酸の上昇を抑制することによって、疲労回復 持久力維持 にも効果的と言えるでしょう。

 

セロトニンの材料の生成に必要

小腸から吸収された鉄は、鉄輸送蛋白質であるトランスフェリンと結合して血液中を移動します。

そして骨髄へ運ばれ、赤血球のもととなる赤芽球上にあるトランスフェリン受容体と結合して取り込まれ、赤血球がつくられます。

赤血球は120日の寿命を過ぎた後、脾臓で分解され、分解した鉄は一旦フェリチンとなって貯蔵されます。

フェリチンの貯蔵がなくなると貧血を起こし、その際、セロトニンという神経伝達物質が正常に生成されなくなります。

鉄はセロトニンの材料であるアミノ酸のトリプトファンの変化の過程で必要な成分
となるため、不足すると鬱症状又は類似症状を呈することがあります。

また、鉄分が不足すると、酸素不足によるイライラが起こる可能性があります。




 

抗菌作用

鉄と結合している成分にラクトフェリンがあります。

ラクトフェリンは母乳、涙、汗、唾液などの分泌液中に含まれる糖たんぱく質です。ラクトフェリンは強力な抗菌作用を持っています。

多くの細菌は増殖する為に鉄を必要とします。

細菌が増殖する際、ラクトフェリンは鉄を奪い去る効果があるので、細菌の増殖を抑制し、抗菌効果を発揮
するのです。

 

コラーゲン生成

鉄はビタミンCとともにコラーゲンを生成 するのに必要な栄養素です。

コラーゲンは皮膚、髪、眼、筋肉、血管壁、骨などの身体の組織の形成に必要となります。

また、褥瘡等の皮膚創傷の治癒に必要 な栄養素の一つとなっています。

 

抗酸化作用

酵素のカタラーゼやスーパーオキシドディムスターゼは鉄を含んでおり、活性酸素を分解する働き によって、抗酸化作用があると言われています。

 

免疫機能の維持

鉄分には白血球中の好中球の殺菌能力を維持 する働きによって、免疫機能の維持に効果があると言われます。

 

欠乏症及び過剰摂取障害

鉄は欠乏すると貧血や運動機能、認知機能の低下を招き、無力感、食欲不振の症状を呈します。

鉄分は通常の食品から摂る場合は過剰摂取が生じる可能性は殆どありません。

サプリメントや鉄強化食品、貧血治療用の鉄製剤の不適切な利用によって過剰摂取が生じる可能性があります。

但し、C型肝炎や非アルコール性脂肪肝においては、鉄のコントロール機構に障害が出ている為、肝臓へ鉄が蓄積され、更に鉄が酸化することによって病状を悪化する恐れがありますので注意が必要です。

 

まとめ

最後に鉄の働きについてまとめます。

  • ヘモグロビンの材料
  • 疲労回復、持久力の維持
  • セロトニン生成に関与
  • 抗菌効果
  • コラーゲン生成
  • 抗酸化作用
  • 免疫機能の維持

鉄分はレバー、貝類、海藻類、緑色の野菜等に含まれますが、偏った食事をしていると不足しやすくなります。

鉄不足が気になる場合は、自身の食生活を振り返ってみましょう。

 
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