時間栄養学

約2400年前、西洋医学の父と呼ばれるヒポクラテスは「規則性は健康の兆候であり、不規則な身体機能や不規則な生活習慣は不健康状態を募らせる」と述べました。

時間栄養学とは、食物の含有成分に視点を置いた「何をどれだけ摂取するか」の従来の栄養学に加えて、人間の健康に効果的に結びつくように「いつ」「どのように」「なに」を食べたらよいのかという実践的な視点を加えた新しい栄養学です。

私達の身体には「体内時計」が存在し、ある刺激によって概日リズムが同調されます。

そのおかげで、肥満や生活習慣病から身体が守られるのです。





 

生体リズムは1日25時間サイクル

体内時計は脳の視床下部にある「視交叉上核」と末梢臓器にある「末梢時計」から成り立っています。

「視交叉上核」は光刺激反応によって同調し、「末梢時計」は食事刺激で同調します。

人間の身体の「生体リズム」は1日25時間サイクルで動いています。

朝起きた時に朝日を浴びると目覚めがよくなります。

これは光を浴びることによって日周リズムがリセットされるのです。

朝に光を浴びると「セロトニン」が生成されます。

セロトニンはメラトニンの材料となります。メラトニンには深い睡眠を促進する働きがあります。

このような観点から、朝日を浴びることは生体リズムを整えることに大きく役立つのです。

これを放ってしまうと生体リズムが乱れ、徐々に夜型の生活となってしまいます。

 

決まった時間に食事を摂る

また、決まった時間に食事をすることも生体リズムのズレの修正に関わります。

食事を毎日決まった時間に摂る生活を続けることによって、食事時間の前になるとお腹が空くというリズムが作られます。

この胃や小腸が食事を待ち受けている状態で食事をすると、栄養素が吸収されやすくなります。

この食べる時間帯を朝から夕までの間を12時間以内に抑えることも大切です。

ただ、夕食については就寝より2~3時間前に摂るのが望ましいでしょう。

夜間帯は脂肪が蓄積されやすく、肥満に繋がってしまうからなのです。

夕食が21時以降にならざる得ない場合は、一度17~18時頃軽食を摂り、昼からの長い血糖降下の防止に努めます。

これは夜遅い時間の空腹を抑えることにより、夜食を多く摂ってしまうことによる内臓脂肪の蓄積を始め、あらゆる生活習慣病の予防にも役立てるのです。

 

BMAL1

BMAL1とは時計遺伝子のことを言います。

BMAL1は全身の細胞に存在する活動リズムを調整する蛋白質の一つです。

3時のおやつが理に適っているのは、BMAL1が関係しているからです。

このBMAL1は時間帯によって変動し、BMAL1が低い時間帯は脂肪を溜め込みにくくなります。

一般的には午後2時から3時にかけてBMAL1が低くなります。

これは起床する時間帯に多少のずれがあり、朝5時に起床する場合は少し時間が早まりますし、8時以降の起床では少し時間が遅れます。

一方、BMAL1が増える時間帯が深夜時間帯です。

特に22時以降に食事を摂ると、食べたものが内臓脂肪として溜め込みやすくなってしまいます。

内臓脂肪が付くことは太ることだけではなく、生活習慣病の観点においてもデメリットです。

深夜時間帯の食事は生活リズムを崩す原因となり、睡眠障害やインスリン分泌に影響を及ぼしてしまいます。

 

シスチンと体内時計

体内時計のうち末梢臓器にある「末梢時計」は、インスリンのシグナルによって影響されるものとして知られてきました。

概日リズムはインスリンの分泌にも影響しており、生活リズムが規則的に行われていると体内時計も調整されます。

しかし、Ⅱ型糖尿病に罹ると、インスリン機能の低下やインスリン注射のタイミングを誤ることによって、体内時計が正常に同調されないケースがあります。

ところが、体内時計には「シスチン」という非必須アミノ酸も関連することが分かるようになったのです。

それには蛋白質を摂ることを心がけることです。

システインはIGF-1を上昇させて、体内時計を正常に調整させると言われます。

IGFとはインスリン様成長因子のことを言い、肝臓や骨格筋などで作られます。

IGF-1とはインクレチンというインスリンの分泌を促進するホルモンの一つですが、このホルモンには食欲を抑制する働きがあると言われます。

特に糖尿病に罹ると、自身との食欲との闘いになります。

血糖値が下がると空腹感を感じ、欲のままに行動してしまうと生活リズムを乱しかねません。

蛋白質やシステインを摂ることによって体内時計のシグナルを調整し、血糖コントロールが困難なケースの概日リズムを整えることに役立つと言えるでしょう。




 

生活習慣病に罹っている場合

生活習慣病等の疾病を抱えている場合は状況を弁えながら個別対応をしていきます。

糖尿病を患っている方は、低血糖防止や食後の急激な血糖上昇防止の為、空腹時間が長くなりすぎないようにしましょう。

その為には、先述に記したように蛋白質を摂ることを心がけます。

肝硬変を患っている場合は肝臓が非常に飢餓状態になり、夜食が必要な場合もあります。

これは患者様の状況によって様々なので、医師の総合的判断に基づき適切な栄養介入を行います。

 

規則正しい食事は日周リズムを整える

また、1日3食規則正しく口から食べることも生体リズムをリセットする働きがあります。

これが中心静脈栄養や経管栄養を24時間連続投与で行われた場合、この日周リズムが消失してしまいます。

ただ食事の回数については必ず3回食べないと基礎代謝の低下や肥満に繋がってしまうとケースもあるそうです。

中には1日1食もしくは2食の方が合っている人もいるので、自分の身体と相談の上、自分に合ったサイクルを調整すると良いかと思います。

 

塩分との関係

時間栄養学の観点からの減塩方法についてですが、朝、昼、夕のいずれかに高塩食を試した結果、朝昼に比べると夕食後の方が尿量、ナトリウム、塩素の排泄量が多いというデータがあります。

これは朝と昼に血中アルドステロンが高くなるというリズムがあるからなのです。

アルドステロンは腎臓でのナトリウムの再吸収を促すホルモンで、間接的に血圧を上げる働きがあります。

なので、血圧の高い方が朝や昼に塩分の多い物を摂取すると腎臓でのナトリウムの再吸収が促されることによって血圧が上がってしまいます。

このような特徴を活用して、朝と昼は塩分を少なく、夕食は濃すぎず薄すぎずの味付けを心がけると時間栄養学に沿った減塩が実践できるのではないでしょうか。

 

成長ホルモンの活用

ある中学校では朝練を廃止することになったとのことですが、実はこれは理に適っているのです。

朝に運動を行うとアドレナリンとノルアドレナリンの分泌量が増加します。アドレナリンが出ると心拍数が上がり、ノルアドレナリンが出ると血圧が上がります。

しかし、成長ホルモンは朝の運動では減少を示し、夕方の運動では逆に増加したというデータがあります。

成長ホルモンを上手く活用するには炭水化物、脂質、蛋白質のバランスが整った食事が必要です。

夕食の血中成長ホルモン分泌と相互させるには昼食の摂取が必要と言われます。

 

まとめ

健康の基本は食事です。

身体を作るのも食事であり、薬からは身体を作ることも出来なければ、健康を維持することが出来ません。

食べ物の含有成分に着目するだけではなく、時間栄養学も併せて活用していくと、多くの人の健康に役立てられるのではないでしょうか。

 
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